僕の忠犬ハチ公



「俺達は俺達、あいつらはあいつらだ。
俺は自分の意思でお前と一緒にいる。
だから、お前がそんな不安になって俯くことはない。
堂々と前を向いて、胸はって歩いてりゃいいんだ」

 俺の言葉を聞いた小梅は、一瞬キョトンと静止していたが、ふっと頬を緩めると、

「うん!」

 太陽のように溌剌と破顔して、元気よく頷いた。




 人という生き物は、一度なくさないと、失ったものの大切さ、尊さに気付けない。

 家に帰ると、いつでも自分を待っていてくれる母親。

 安心して眠れる暖かい寝床。

 病気になれば当たり前に看病し、見守ってくれる家族。

 大人になって自立して離れても、いつも家族を心配して助けてくれる兄。

 どれもこれも自分達にとって当たり前に存在しすぎて、それが幸せ過ぎるものであることを理解できていない。

 これくらいは当然で普通だと、ありがたみを忘れさってしまい、それが自分にとってなくてはならないもの、自分次第でなくなる可能性のあることにすら気付いていない。

 俺にとって小梅はそんな存在の一つだったんだと思う。

 自分の愚かな思考と行動で、一度小梅を失った俺が、再び取り戻すことができたのは、こんな俺なのに、小梅がずっと待っていてくれたから。

 それは、奇跡に等しい出来事。

 もう、なくさない。

 もう絶対、見失わない。

 俺は繋がれた手から伝わる小梅の温もりが、心の底から愛おしかった。


おわり