僕の忠犬ハチ公



「ゴフッ!」

 腹にめり込んだ男の拳に嘔吐感がわき、口から殆ど赤の唾液を吐き出す。

「顔ばっかりじゃ、さすがにやばいからな」

 計算されて出された言葉に、自分以外にも男によってこの行為を受けた者が少なくないと知る。

 いや、正確にゆうと舞によってか。

 だんだんと、あの夜舞が俺に声をかけた理由がわかってきた。

 おそらくこの男を振り向かせるためだろう。

 自分に酷い事をした相手に仕返しをする男の姿を見て、愛されていることを実感し、己を満たしているのだろう。

 男の歪んだ支配欲と共に、俺も利用されたのだ。

 しかし所詮はかりそめ。
 一時的に麻酔を打たれて夢心地にいるにしかすぎない。

 いつか必ず夢は醒め、再び孤独の淵に立たされる時が来る。

 男に腹を殴打され、体はどんどん追い詰められていくのに、そんなことを考えるほど頭は妙に冷めていた。