僕の忠犬ハチ公



 なんでここで小梅が出てくるんだ?

 気がつくと、下駄箱に向かって歩いていたはずの俺の足は、動いていなかった。

 どうやら頭の中の小梅にとらわれ、いつの間にか立ち止まってしまっていたようだ。

 ふと、辺りを見回してみると、今はシャッターが降り、暗く閉ざされている購買が視界に入った。

 そこは、小梅が俺を待っていた場所。

 購買の近くの壁に寄り掛かり、いつも、待っていた。

 不意に、小梅と一緒に弁当を食べた記憶が、頭を駆け巡る。

一―そっかぁ、それは真君辛かったね。

一―大丈夫だよ。真君にならできるよ。もっと自信をもって。

――大変だったんだね。でも、真君すごく頑張ったね。

…………

 ああ、そうか、俺の愚痴や不安は、全て小梅が聞いてくれていたのか……。

 嫌な顔一つせず、優しい眼差しで、ありのままの俺を受け止めてくれた。

「小、梅……」

 俺は小さく声に出し、名前を呼んでみた。

 もちろん返事はない。

 くそっ!!

 だからなんだっていうんだ!!

 なんであいつと話さないと俺はこんなにイライラしなきゃいけないんだ!!

 あいつでストレス発散していたからってそれがどうしたっていうんだよ!!

 ちくしょう!!

 あいつが俺に関わってさえこなければ……。

 そうだ、あいつが俺に関わったから俺はこんな風になってしまったんだ。

 俺が道に鞄の中身を落としてしまったあの時、あいつが手を差し延べてきたから。

 全部あいつが悪いんだ。

 全てあいつのせいなんだ!!

 あいつなんて、この世からいなくなればいいんだ!!

「くそ!!」

 ドン!!

 俺は渾身の力で壁を叩きつけた。

 赤くなった拳より、心のほうが痛かった。