「きょうつけ〜これで掃除の反省を終わりま〜す」

「「終わりま〜す」」

 放課後の教室掃除を終えた俺は、鞄を掴むと出入口に向かって歩きだした。

「なになに真平ちゃん、今日も愛しの彼女のところに行くの〜?」

 教室を出ようとしたところで、一緒に掃除をしていたクラスメイトの利光に声をかけられる。

「別に彼女とかそんなんじゃねーし」

 俺はそう答えると、引き戸のとってに手をかけた。

「なんかあいつって忠犬ハチ公みたいだよな」

「はぁ?」

 教室を出ようとしたが、利光の突飛なもの言いに思わず足を止める。

「だってそうじゃん。たいした用事もないのに教室に残って律儀にお前のこと待ってんじゃん。
名前のハ田小梅だって縮めたらハチ公になるし、うん、さしずめお前はご主人様だな」

 そう言って愉快そうに利光はケラケラと笑った。

「なにくだらないこと考えてんだよお前は。そんなこと考える暇あったら、早く帰って勉強しろよ。俺達受験生だぞ」

「へーい」

 利光の生半可な返事を聞いて、俺は今度こそ教室を出た。

 俺の名前は田村真平、森川南中学校に通う三年五組の生徒だ。

 現在は寒さ厳しい、二月の受験シーズン真っ只中。

 本番までは残り僅かな日数しか残っていない、 友達と遊んでいる暇などあるわけがないのだ。

 学校が終わればまっすぐ家に帰って机にむかうのみだ。

 だが俺はこれから一カ所だけ寄り道をしようと思っている。