「ただいま!」
“ただいま”なんて言ったのって何年振りだろう……。
勢いよく玄関のドアを開けて、そう言った。
…………けど、あれ?
美雨?
部屋の中は真っ暗。
いつもと変わらない、1人暮らしの部屋に帰って来たような……。
「美雨?」
俺は美雨の名前を呼びながら靴を脱いだ。
いないのか?
まさか……出て行ったとか?
「美雨?」
やっぱり返事はない。
てか、しゃべることをしない彼女だから返事をするわけねぇか……。
玄関脇の壁にあるダイニングキッチンの電気のスイッチを押した。
オレンジ色に明るくなるダイニングキッチン。
ダイニングから続く部屋の中を目を凝らして見た。
グレーのスウェットを着た後ろ姿が見える。
テーブルの前に座っている美雨。
顔を真っ直ぐしたまま人形のように動かない。
何だ……いたのか……。
良かった……。
口から安堵の溜め息がもれる。
でも美雨は電気もつけずに、ずっと暗い部屋にいたのか?