「あやめちゃんが何も応えなようとしなかったから、事情を聞くために佐原さんのお宅に電話しようとしました。そうしたら、あやめちゃんは何も言わず逃げるように、ここを出て行ったんです」
「そう、だったんですか……」
それで美雨はアパートのゴミステーションに隠れるようにいたんだ。
車でも30分かかるこの場所から逃げるように走って来た美雨。
しかも雨の中を……。
「そのあと、佐原さんのお宅に電話したんです」
「えっ?」
「お母様が出られて、あやめちゃんが来たことを言いました。
でも、お母様は、あやめは母方の遠い親戚の家にいるとおっしゃって……。
私が何を言っても親戚の家にいるの一点張りで……。
だから警察や児童相談所には連絡するなと……。
探すなら勝手に探せばいいけど、探し出しても連絡はしてくるなと言われて電話を切られました。
そのあと何回か電話したんですけど、これ以上、電話してきたら訴えると言われ、私にも生活がありますから、そこで電話をするのをやめました」
そんな……。
だったら最初から美雨を引き取るなよ。
自分達の身勝手で美雨を引き取って偽りの家族を演じて……。
何なんだよ。
俺は膝の上に置いていた手をギュッと強く握りしめた。



