美しい雨―キミの笑顔を見せて―




玄関のドアノブの手を離し、スーツのポケットから財布を取り出し、一万円札を1枚出した。



「そこにコンビニがあるから、これでお茶でも買いなさい」



俺はそう言って、一万円札を佐原に差し出した。



「いらない」



佐原は差し出された一万円札に目線を落としたまま首を左右に振りそう言った。



「どうして?お茶が飲みたいんだろ?」


「買ったお茶じゃなくて、先生がいれてくれたお茶が飲みたいの」



一万円札から俺に目線を移した佐原は上目遣いで俺を見た。



「それは無理だから……。それに遅くなったら親御さんも心配するだろうから早く帰りなさい」


「それは大丈夫。うち放任主義だし、それにパパもママも今日はいないし……」


「でも、とにかく今日は帰りなさい」



俺はそう言って、一万円札を手に持ったまま、再び玄関のドアノブに手をかけた。



「あっ!そうだ!私が晩ご飯を作ってあげる!美雨ちゃんと3人で食べよ?」



はぁ?


俺は溜め息をついてドアノブから手を離した。


その隙をついて佐原は俺の脇をすり抜けると、玄関のドアノブを持った。



「ちょ、佐原!何してんだよ!」



俺は佐原を止めようとしたけど、時既に遅し……。


佐原は玄関を開けてしまった……。