「そんな前のことは覚えてないし、とにかく美雨って子も知らないし彼女もいない」
俺は佐原にそう早口で伝えると、佐原の横を通って玄関の前に行った。
手に持っていたキーケースについている部屋の鍵を玄関の鍵穴に挿した。
鍵を回して、鍵を開ける。
「そういうことだから、もう帰りなさい」
鍵が明けられた玄関のドアノブを持ったまま、後ろにいた佐原の方を向いてそう言った。
部屋の中には美雨がいる。
佐原に見せるわけにはいかない。
このまま玄関を開けたら佐原に美雨の姿が見えてしまう。
「えぇ!何でぇ?この暑い中、私、ずっと先生を待ってたんだよ?」
それは佐原が勝手に待ってただけじゃねぇか。
俺が頼んだわけじゃねぇし。
俺のせいにすんじゃねぇよ。
「可愛い生徒が暑い中、待ってたんだから、部屋の中に入れてくれて、お茶くらい出してくれたっていいんじゃない?」
佐原はそう言って、頬をプクッと膨らませた。
こういう仕草が男心をくすぐるんだろうけど、俺は何とも思わない。
てか、マジ早く帰ってくれ。



