「佐原……」



俺は彼女の名字をポツリと呟いた。



「先生、待ちくたびれちゃった」



驚きを隠せない俺とは正反対に、佐原はそう言ってクスクス笑っていた。


待ちくたびれって、いつからいるんだ?


てか、何で俺の家を知ってんだ?


佐原に、ここの住所を言った覚えはないけど……。



「なぁ、佐原」


「ん?」


「何で、ここを知った?」


「んー?何でだと思う?」



佐原は長い髪の毛の先を指でクルクルと巻きながら上目遣いでそう聞いてきた。



「わからないから聞いてんだろ?」


「うちのクラスの担任に、中野先生に暑中見舞いのハガキを送りたいから住所を教えて下さいって言ったら教えてくれたよ」


佐原は相変わらず毛先を指でクルクルしながらそう言った。


はぁ?


担任に聞いた?


佐原のクラスの担任って誰だよ。


暑中見舞いだか何だか知らねぇけど、本人の許可なくプライベートなことを生徒に簡単に教えてもいいのかよ。