ちょっと何するのよー、なんていうあたしの不満を余所に、梨華はマスターに水を頼む。
「……彼、他に好きな女が出来たんだって。
大切にしたいって……。
ねぇ、あたしは大切にしたくなかったのかなぁ…?
あたしって、大切にする価値もない女?」
「何ばかなこと言ってるのよ」
ため息をつきながらマスターから水を受け取った梨華は、それをあたしに渡す。
「『大切にする』ことに価値なんてないでしょう。
みんなが、大切にされて当たり前なの。
もちろん、雨衣だってそう。
……ほら、お水飲む。
明日も仕事なんだからね」
お姉さんみたいな梨華の存在は、あたしを地獄から少しだけ救い出してくれる。
みんな大切にされて当たり前、なんて言葉、名言じゃない。
………だけど。
「それじゃ、もう帰りましょう」
大人しく水を飲んで、梨華に促されて立ち上がる。
