次の日、会社の休憩時間に大塚さんと鰻を食べるため、定食屋へ行った。


 先日彼が言っていた、会社の近所にある美味い鰻丼を出してくれる店だそうだ。


 店内に入り、お座敷に通された後、並を二つ注文する。

「すまんな、俺の奢りだから少ない小遣いじゃあ並しか注文できん。まあ並でもここの店は美味しいから、他の店の上くらいの価値はある」そう言って大塚さんは煙草を吹かした。


「すいません。ほんとに奢ってもらえるなんて驚きました。それにしてもいい匂いですね」


 厨房から鼻をくすぐる様ないい匂いがする。それだけで、口の中に唾液が溢れてくるのを感じた。


「ああ、そりゃ俺が見付けた店だもんよ。香りからして一級品だ。鰻が着たら存分に匂いを嗅いだらいい」冗談なのか本気なのか、大塚さんはそう言った。


「いえ、鰻が着たら早速食べさせて頂きますよ。楽しみです」手ぬぐいで手を拭きながら、水の入ったコップに手を伸ばした。