「俺、吉田さんの事好きになっちまったみたいだ」


 田渕の顔がカァーッと赤くなったような気がした。それは夕陽のせいだったのかもしれない。


 言葉を発しない俺に見られているのが恥ずかしくなったのか、田渕は少し俯きながら、再度自転車のペダルを漕ぎ出した。俺もそれに続く。


「最近さ、学校に行くと吉田さんの方ばっかり見てるんだよ。自分でも気が付かない内に目が吉田さんを追ってるんだ。やっぱり、これって、恋ってやつなのかな」


 真剣に話している田渕には悪かったが、その時はそんな恥ずかしげに語る田渕がおかしくて仕方が無かった。


 野球部の大男が頬を赤らめながら、『俺、恋しちゃったよ』なんて言うのは、面白い光景だった。