「お宅の食材、昨日のお肉の色随分悪かったよ!うちのフランソワちゃん少しも食べようとしなかったしね。ちゃんと新鮮なの届けてくれないと困るよっ!!」



「はぁ、そう言われましてもうちは鮮度には充分気を配って・・・」



「フランソワちゃんはねっ、そこいらの雑犬と違って舌が肥えてんだよ。疑うんなら今後は別のとこから取ってもいいんだよっ!!」



キャンキャン吠える室内犬を抱いて中年女はバタン!!とドアを閉めた。



「なぁーにが、舌が肥えてるよ。肥えてるのはあんたでしょ!!」



カラになった箱を抱えて、奈央は仕事用である軽トラックの荷台の観音扉を開いた。



「あったまくるなぁ。三回に一回は何かしらモンクつけて。どうせ、月末の支払いを割り引かせるいつもの手なのよね。だったらこんなに注文しなきゃいいのに」



奈央は悪態をつきながら運転席に戻ると、配達伝票の名前にボールペンでチェックを入れた。



「あと21軒か。今日は道がすいてるから、すばるを早く迎えに行けるかな」



助手席に、ボールペンを挟んだバインダーを放り投げて、奈央はシフトレバーをローに入れた。