取り囲んだ連中の中に男がいなかったことに、不満だった奈央は、それでも皆にお礼を言うと離れてたたずんでいる男に近寄って行って言った。 「いくじなしなのね。あなたが助けてくれると思ってたのに」 男は無表情のまま、ヘルメットを取った。 「可愛いこちゃん、危険なボクサーは俺じゃなくてコイツだよ」 奈央をかばってくれた男が奈央の肩をたたいて、笑いながらそう言った。