「脳性麻痺で、ご両親が亡くなってからずっと新潟の施設に預けっぱなしだったんだって。ベティママの両親はママが里帰りすることも許さなかった人たちだから、自分たちが死んだら娘は施設にって決めてたらしいわ。・・・思えばものが言えないすばるのためにあんなに尽くしてくれたのもそのことがあったからなのかも。ベティママが井田さんに打ち明けたら井田さんは、何でもっと早く言ってくれなかった、早速引き取ろう!ってね」
「素敵な人ね、井田さんて」
「なんたっててんちゃんのパパだもの」
奈央は微笑んで更に続けた。
「それに奇跡のようなエピソードがあるの」
「えっ?なに?」
「井田さんとベティママが妹さんを引き取りに行った新潟の施設は、六年前震災があった地区なんですって」
「うん?」
「園長室で妹さんが連れられてくるのを待っていたとき、ふと壁の写真が目についたの」
「・・・うん」
「バイクで運んできた生活用品を配ったり、身体の不自由な人たちを避難させているてんちゃんたちのショットが貼ってあったんだって」
「え!?」
「園長先生によると、地震発生から数時間後、政府の救援隊でさえまだ到着していないというのにてんちゃんが数十台のバイク隊を引き連れて生活物資を震災現場に運び込んだんだって。車が容易に行けないエリアもくまなくね。名前を聞いても言わなかったので内緒で写真を撮っておいたんですって。ベティママの妹さんを抱き上げて避難所に運ぶてんちゃんの写真もその中にあったの」
「へぇ、その写真を井田さんとベティママが偶然見つけたわけね!」
「偶然というか導きかも。てんちゃんは芯からアウトサイダーには成り切れなかったのよ。井田さん本当に嬉しそうにずっとその写真を眺めてたって。・・・妹さんを引き取っててんちゃんに会わせた時、妹さんてんちゃんに気づいたかのようにほんの少し笑ったって」
「よかったわね。素敵なエピソードね」
かおりが感動で目を真っ赤にして言った。
奈央は赤ん坊を優しく見つめていた。



