「中岡君、いつもの井田さんち、クレーム入ったんだ。届けられた品物に注文したローストビーフ用の肉が入ってなかったと言うんだ」




会社に戻り、奈央がトラックから降りたとたん、課長が困り果てたようすで言った。




「そんなぁ、わたしちゃんと確認しました」




奈央は声を荒げた。




「わかってる。しかし、お客様には逆らえないしな。たのむ、もう一度走ってくれ」




課長は手をすり合わせた。




「くっそーまたあの家か。あんな客切っちゃえばいいじゃないですか。月に何度いちゃもんつけてくると思ってます?いちいちこんなことしてたら赤字になっちゃうでしょう」



「・・・もう、なってる」



課長は下を向いて、うなだれた。




「じゃあ、なんで!」




奈央が怒鳴った。




「怖いんだよ。あの人には以前にあることないこと言いふらされて、随分会社のイメージを傷つけられたんだ。懸命の努力でやっと回復したんだよ。たのむ」