夜遅く母が奈央の部屋に来た。二人は気まずそうに並んでベッドに座った。



「正彦・・・、原田さんのこと嫌い?」



「嫌いも何も、母さんがあんな男のどこが好きか理解に苦しむわ」



「・・・・・あなたのお父さんの若い頃に似てるのよ」



「似てないわ!ちっとも!!父さんはもっと穏やかで優しくて明るくて・・・」



奈央はムキになって反論した。



「私だってまだ39なのよ。父さんのことは残念だったし奈央にも悪かったと思っている。でも、これから長い人生一人で生きていくのが耐えられないの」



「相手によりけりだわ。あたしは母さんが再婚するのを反対しようなんて思ったことないわ。でも、なんであいつなの!?あいつがわたしに何をしようとしたか教えてあげましょうか!?」



「だいたい見当がつくわ」



「それなら、なぜっ!?なぜ別れないの?」



「愛してるのよ、どうしようもないの。人は完璧で見かけも性格も素晴らしい人間だけを愛するとは限らないのよ」



「そう、じゃああたしが出て行くしかないのね」



「皆で仲よく暮らしましょうよ。ねっ、家族は四人になるのよ。子供が生まれれば彼もきっと落ち着くから」



「そうは思えない!!」



必死で説得をする母を尻目に、奈央はバックパックに着替えを詰めはじめた。



玄関を出ると母が奈央を呼ぶ声と、原田の「ほっとけ!すぐ帰ってくるって」と吐き捨てる声が共鳴して奈央の耳にこだました。