「じーちゃーんっ、早く散歩に行こうよーっ」


もたもたと用意をしているじーちゃんを玄関から呼んだ。


「そんなに急がんでも海は逃げん」


あれから5年。


相変わらず無愛想なじーちゃんだけど、私と早朝の散歩をする事が毎日の日課。


今のとこ、病気の再発はない。


元気モリモリのじーちゃんです。


じーちゃんと一緒に、あの公園を横切りながら海を見る。


じーちゃんが私に言う。


「あと何回ここを歩けるかな…」


「毎日毎日同じ事ばっか言って、よく飽きないね」


何回でも何万回でも歩けるよ。


私と一緒にね。


「そういえば深の結婚式、来週だったな」


「うん」


来週だよ。


「懐かしいな、あのこ芝居も…笑」


「そうだね」


5年前、


深は私をあの家から連れ出す為に、私と結婚をすると言った。


じーちゃんと私はまんまと騙されたね。


私と深が過去にした結婚の約束は、やっぱり子供同士の約束だった。


深はちょこっとだけ本気で、じーちゃんに「風花を迎えに行く」って言ったみたいだけど、


成長と共に人の心は変わる。


離れてたら、余計に。


そして5年前に再会した時、


深にはちゃんとした彼女がいた。


とってもかわいい小椋みうさん。


私はみゅーさんって呼んでるんだ。


私の部屋も、みゅーさんが用意してくれた。


朝ご飯も、お弁当も、たまに夜ご飯も。


事情を聞いて、私を受け入れてくれたんだ。


みゅーさんは遊びに来るといつも深の部屋で寝てたけど、いつの間にか私と同じベッドで眠ってくれるようになった。


やっぱり私は大学には進学しなくて、就職先の相談にもみゅーさんはのってくれた。


じーちゃんの退院が決まった日、みゅーさんまで泣いて喜んでくれたんだ。


本当に…


私の大好きなお姉ちゃん。


深と…


幸せになってね…。