加瀬君がパッと私から離れて、私も我に返った。


今の声…


まさかだけど……


立ち上がって声がする方を見た。


こっち向かって、スーツ姿の男の人が歩いてきてる。


自分の目を疑った。


何で…?


「誰あいつ…?」


加瀬君に聞かれて、久しぶりにその名前を呼んだ。


「深(しん)…………」


どうして深がここにいるの…?


「風花、久しぶり。約束通りお前を迎えに来たよ」

え………


約束って、何の約束…?


深は、加瀬君には目もくれず私の腕を掴んだ。


「帰ろう。おばあさんが待ってる」


「えっ?ちょっと待ってっ…」


深に無理やり連れて行かれそうになって加瀬君を振り返ったら、呆然とした顔でこっちを見ていた。


公園を出てすぐ、深の歩くペースがゆっくりになった。


「今の男、友達?あんな派手な奴といたらダメだろ」


深の説教口調は相変わらずだな…。


深からゆっくり手を離した。


深は、前に住んでた家の隣りに住んでたお兄ちゃん。


私よりも4つ年上で、今は大学4年生…のはず。


会うのは、4年ぶり…。


4年前…。


私は深が好きだった。


いつも冷静で優しくて、勉強熱心で私の家庭教師もしてくれてた。


親の離婚が決まってばーちゃんちに行く事になった時、深の胸で一晩中泣いたんだ…。


あの頃より、深はだいぶ大人になった。


スーツが様になってる。


車が横を通るたびに後ろを歩く私を振り返る。


そこは変わってないね。


「もう子供じゃないんだから…。大丈夫だよ」


ひかれたりしない。


「俺の中ではまだ風花は子供だよ。でもキレイになったな…驚いたよ」


「本当??私、貧乏臭くない??」


「ははっ、何だよそれ。全然貧乏臭くなんかないよ」


よかった…!


けっこう気にしてたんだから、あのギャル達の言葉。


ホッとした。