♀優希side♀


「そこはこうだ」


いつも優希が自主練習する場所からは、男子生徒の声が響いた。

あの日以来、美術部の朝練がない日はこうやって指導をしに来てくれる。

あれから結構経ったが、あの岡部という少女は被害にあってないみたいだ。

それはよかったことだが、まだ様子は見た方がいいということで、一応警戒している優希と遥。


(……このまま何もなければいいが、油断は出来ない)


あの女の子について考えていると、スッと腕に触れられた。


「………集中しろ」


少し低めの声が、間近から聞こえる。

ドキリ、胸が踊りだす。

今度は別の意味で集中出来なくなってしまった。


(…だ、駄目だ。雑念は捨てろ!)


深呼吸をし、ぐっと竹刀を持つ手に力を籠める。

それからは何も考えずに、ただ基礎練習ばかりを行っていた。

だが優希はひとつも文句を言おうとはしない。

何故なら彼女自身も、基礎練習こそ強くなるための一歩だと考えているからだ。


「そこまで」


竹刀をゆっくりとおろし、額から流れる汗を拭う。