「……汚い手で触んなよ」
彼は無言無表情のまま、髪の毛を掴んでいた手を離す。
そして、その拳が大きく振りあがった。
(あぁ…もう本当に駄目だ)
何やってんだろ、あたし…そうぼんやりと考えながら、目を閉じた。
けれど、それは瞬時にまた開かれることになる。
「……チッ、この馬鹿!」
突然、大声で罵られたかと思えば、パンッと高い音が耳をすり抜けた。
(竹刀の音…?)
目を開けば、ふらふらとしている男と、凛と背筋を伸ばして竹刀を構えている遥がいた。
「…てめぇ」
優希を縛っていたふたり分の手が完全に離れ、遥に矢が飛ぶ。
「先輩に楯突いたってことは…、覚悟は出来てんだろうな?」
体格のいい男は頭を打たれたらしく、未だふらふらしているため、もう闘うことは出来ないだろう。


