「こいつを殴ったのは貴方ですか?」
笑顔をキープしたまま彼に向き直り、親指で優希を指す。
「あぁ」
ふと、男は何を思ったのか、にやりと口角を上げる。
「なんだ?お前もこいつを殴りたいのか?」
こちらを背にして、肩を組んだ男。
遥はそれを振りほどくことはしなかった。
「えぇ」
口元は笑んでいても、何故かその目は決して笑っていない。
優希は眉を潜め、じっと彼のその横顔を見つめた。
(何を考えてる…?)
もしかして本当に彼は、彼女を殴りたいと思っているのだろうか。
だが、それだとこちらに視線を向け、殴られた頬の跡を目にしたときに、一瞬だけ瞳が鋭い光を帯びた理由が分からない。
(気のせい、なのか…?)
俯いて、不安を精一杯隠すように誰も視界に入れないようにする。


