コンプレックスなふたり☆



「こいつを殴ったのは貴方ですか?」


笑顔をキープしたまま彼に向き直り、親指で優希を指す。


「あぁ」 


ふと、男は何を思ったのか、にやりと口角を上げる。


「なんだ?お前もこいつを殴りたいのか?」


こちらを背にして、肩を組んだ男。

遥はそれを振りほどくことはしなかった。


「えぇ」


口元は笑んでいても、何故かその目は決して笑っていない。

優希は眉を潜め、じっと彼のその横顔を見つめた。


(何を考えてる…?)


もしかして本当に彼は、彼女を殴りたいと思っているのだろうか。

だが、それだとこちらに視線を向け、殴られた頬の跡を目にしたときに、一瞬だけ瞳が鋭い光を帯びた理由が分からない。


(気のせい、なのか…?)


俯いて、不安を精一杯隠すように誰も視界に入れないようにする。