この光景は美術部にとってみれば日常茶飯事だ。

ほぼ毎日の様に行われるため、初めは入りたての一年生は驚くのだが、慣れてくるにつれ、一年でさえ気にしなくなるほど。

逆にこの光景を見るのが楽しみという、可笑しな奴まで現れる始末だ。


少年、山下遥(ヤマシタハルカ)はじっと何気なく右拳を見つめる。


(…俺の右手が痛い気がするが、それも気のせいだよな)


「遥っ! 何すんだよ!」

「……何が?」

「とぼけんなっ!今殴ったろ!」


横がギャーギャー騒がしいので、パシリと痛みがない左手で頭を叩いてやる。


「だから、何で叩くんだよ!」

「……あ。左手が滑った」

「滑るか普通! 可笑しいだろオイ!」


(あー…うるせ)


指を耳穴に突っ込み、嫌そうに顔をしかめた。