溺愛プリンス


――――――……
―――……



「お客様、いかがでしょうか?」



薄いカーテンの向こう側で、女の人の声がする。
あたしは茫然と目の前の鏡を見つめたまま、小さく「……はい」と返事をした。


すると、すぐにカーテンが開け放たれて上品なスーツに身を包んだ清楚な女の人が笑顔で現れた。



「まあ!とってもお似合いです。サイズも……ピッタリですね」

「そうでしょうか……」


似合ってる?


女の人はパチンと両手を合わせて、大げさな程褒めてくる。
悪い気はしないけど……なんだかなぁ……。


鏡の中の自分は、まるで別人。

ざっくりと胸のあいた大胆なデザイン。
キュッとウエストがしまっていて、腰から足元にかけて流れるような光沢のある生地がキラキラと光って見えた。

見た事もないような仕立ての良いドレスに身を包んで、あたしはどうしたらいいかわからない顔をしている。


強引に車に乗せられて、連れて来られたのは高級ブランド店が並ぶ大通りから一本入った場所。

このお店もすでに5件目。

よく、雑誌やテレビでも特集されるようなこの場所で、あたしは何着ものドレスを試着していた。



そしてそのたびに、ハルのチェックが入るんだけど……。
鏡の中の自分を見返すと、すぐにハルが顔を覗かせた。




「ハル……あの、」


しばらくジッとあたしの姿を眺めていたハルは腕を組みながらサラッと言った。



「よし。それをくれ」

「え?」


……クレ?

一瞬ポカンとして、慌ててフィッティングルームから飛び出た。
ハルはそんなあたしの肩をガシっと掴むとそのままクルリと向きを反転させる。



「このドレスならこの靴だな。履いてみろ」



そう言って、手際よく靴を合わせて見せた。
腰を低くしたハルが、あたしに靴を差し出した。