溺愛プリンス



「お前は、愛されているな」

「……え」

「今日、それがわかった」

「……」




ハル?


真っ黒な髪は、夜空に溶けてしまいそう。
空色の瞳は、星屑を吸い込んでキラキラ揺れている。

まるで、今日の満月のような儚いその横顔から目が逸らせずに、あたしはハルを見つめていた。





「俺の髪は日本人譲りだって、知ってるか?」



唐突に切り出されたハルの言葉に、戸惑いながらもうなずいた。



「はい。えっと、おばあ様が日本の方だって」



コクリと頷くと、ハルはふ、と笑った。



「違う。これは、母親だ」

「え?お母さん?」



そうなの?
あれ?でも、テレビで白人の金髪の王妃様を見た事あるような……。


キョトンとしたあたし。
繋いでいた手を離すと、ハルはそっと柵に身体を預けた。

熱が消え、海風にさらされた手が急に冷えていく気がした。



「つまり俺は、ベルト王とその愛人の間に生まれた子供。
そして、幼い頃に母親は死んで、その後父親に引き取られた」



あ、愛人!!?

なんていえばいいのかわからずに戸惑っていると、そんなあたしなんかお構いなしで、ハルは言葉を続けた。


「病弱だった母が、死ぬ前に俺に言っていた話があるんだ……。
人間の生命は月の満ち欠けと密接に関係している。海もそうだ、海が満ちる時に人は生れる。そして、引き潮に人は天に還る」


「あ、それ……あたしも聞いた事あります……。月の引力のせいだって」



たしか、おばあちゃんから聞いた話だ。


空から視線を落としたハルに、真っ直ぐに見下ろされ、心なしか胸の奥がトクンって鳴いた。