溺愛プリンス



ここ……どこ?


車の外は真っ暗だった。



「起きたか?」


え?


顔を上げると、真っ直ぐにあたしを見つめるハルがいた。



「俺といる時に寝るなんて……たいした女だな、お前は」

「ご!ごめんなさいっ……昨日、ちょっと寝不足で……」



どこかおかしそうにそういったハル。
なぜか無性に恥ずかしくて、おもわずうつむいた。


うう……、あたしってばなんで寝ちゃうの?
しかも、ここどこ?



「あの、ハル……ここは」

「ちょっと付き合え」

「へ?」


あたしの質問には答えずに、ハルはさっさと車から降りてしまった。
勢いよく閉まるドアに、思わず身を竦める。


なんなの?
……もぉ!

仕方なくドアを開けると、瞬間潮の香りが鼻をかすめた。




―――ザザーーン ザザーーン

かすかに聞こえる波の音。


ここは……




「……海?」




少し高台になったこの場所から、大きな満月が照らす大海原が見渡せた。
そこで待っていたハルが、ゆっくりと振り返る。



「志穂」



差し出された手を迷わず取ると、ハルが小さく笑った気がした。


……あ、また……。
お母さんに向けた、あの顔だ。

優しくて……あったかくて。
でもどこかさびしげな、そんな表情。


その顔をジッと見つめていると、夜空を仰いだハルが口を開いた。