溺愛プリンス



「ハル!今度オレが日本のゲームってやつを教えてやるからな!」

「ああ。楽しみにしてる」

「今日はなんのお構いも出来なくて、ごめんなさい。また、いつでも遊びに来て下さいね」

「ええ、是非」


頬をバラ色の染めた母が、なんの迷いもなくハルの手に触れた。
そのまましっかりと握りしめる。

結局あれからずっと居座り続けたハルは、なぜか母や弟とすっかり打ち解けていた。



「ハル王子。志穂をよろしくお願いしますね」

「ちょ、お、お母さん!」



ギョッとして、慌てて詰め寄るとハルがニコリと微笑んだ。
ふわりと目じりを下げたその顔に、思わず足を止める。


……なんで?

なんでそんな、顔……。







帰りもハルの車で送ってもらう事になったあたしは、ぼんやりと窓の外を眺めていた。

休日の今日は、普段より車が多い。
時折渋滞にはまりながら、見慣れた道を進む。


陽も傾き始めた街並みは、オレンジ色に染まろうとしていた。


瞬きするたびに、脳裏をよぎる『あの日』。


茜の空は、あたしを過去に引きづり込む。






「……」



真っ黒な何かに呑み込まれそうな感覚に、慌てて目を閉じた。


それからどれくらいたったんだろう。
車が止まったのに気付いて、ハッと顔を上げた。