「おかえり!」


『月島』につくと、すぐに椎香さんが出迎えてくれた。
ご飯を作って待っていてくれたようで、エプロン姿で長い髪をひとつにくくっている。



「かーちゃん、ただいま」

「草介!いい子にしてた?」


椎香さんの足にそのまま飛びつくようにした草介くんの頭をクシャリとかき混ぜながら、椎香さんはあたしに視線を移した。


「えっと、あなたが志穂ちゃんよね?今日は篤と草介の付き添いご苦労様」

「い、いいえ! そんな……こちらこそ、ご、ご苦労様です!」

「あはは! お兄ちゃんて、車以外の乗り物ぜーんぶダメだからさ。志穂ちゃんが一緒でほんとによかった!」



まるで夏に咲く向日葵のようにケラケラと笑った椎香さん。
あたしはその言葉に、車を車庫に停めて戻ってきた篤さんを見上げた。


「っとに、それがわかってて遊園地へ行けって言うのかお前」

「もう30なんだから、せめて電車くらいは乗れるようになってもらわないと!」

「電車と遊園地は無関係だぞ?」

「乗り物だもん、おんなじもんよ」

「あつし、だせぇー」



椎香さん、さらには草介くんにまでダメだしされて篤さんは大きくため息をついた。


「ほんと、志穂ちゃんがいてくれて助かったよ。って、ほとんど草介のお守になっちゃって申し訳ない……」

「あたしこそ!久しぶりに遊園地行けて楽しかったので!」

「志穂ちゃん……」


フルフルと思い切り首を振ると、篤さんは嬉しそうにフワリと目じりを下げた。

カッと頬が熱を持つ。
慌てて俯くと、椎香さんがパチンと両手を合わせた。


「志穂ちゃん!お礼ってわけじゃないけど、晩御飯、食べて行ってね?」

「え?」



ハッとして顔を上げると、篤さんもコクリと頷いてくれた。


「そうだね。椎香は和菓子作りはだめだけど、和食作りはほんと上手だからね。食べて行ってよ」

「お兄ちゃん。一言余計よ」

「かーちゃん、料理以外は全然ダメだもんな」

「草介!」


コラー!と椎香さんが追いかけるような仕草をすると、草介くんは慌てて逃げ出した。

すごいな椎香さん。
篤さんと兄妹なはずなのに、性格が真逆だ。


逃げ惑う草介くんを目で追いながら、朗らかに笑う篤さん。


すごく素敵だなって思った。