「よーし! 付き合ってあげるっ」


草介くんにそう言って、パッと振り返った。



「篤さんは、ここで休んでて下さいね?」

「……。 志穂ちゃん、ありがとう」

「いえ!行ってきます」



ベンチに座ったままの篤さんにそう言って、草介くんと駆け出した。



”好きです”って言えなかったな……。
でも……この気持ち。篤さんに聞いて欲しい。








それから日が暮れるまで遊園地を堪能したあたし達は、篤さんの運転する車に乗って国道を走っていた。

ついさっき、篤さんの携帯に椎香さんからお店で待ってるってメッセージがきていて。
草介くんに急かされるように家路についたんだ。


当の本人は、遊び疲れたのかすやすやと気持ちよさそうな寝息を立てているんだけど。

それも、あたしの膝の上で……。
少しは懐いてくれてるんだろうか。

幼い寝顔を眺めながら、その肩にそっと触れた。



少しだけ開いた窓から吹き込む風の中に、ほんの少しの雨の匂い。
結んだ髪がフワフワ揺れて、時々頬をくすぐった。

チラリとルームミラーを盗み見ると、篤さんの長い前髪も同じように風に揺れていた。

車内は、テンポのいい洋楽が小さく聴こえている。



言葉なんてない。
でも、そんなの全然気にならなくて。
むしろ、それが自然で……。


大きな橋の上からは、海の向こう側に太陽が沈もうとしてるのがよく見えた。

夕暮れ。
世界が、オレンジに染まる。


茜色は、あたしを過去に引きづりこむ。

ユラユラ揺れる世界。


「……」



あたしはキュッと唇を噛みしめて、そっと目を閉じた。