溺愛プリンス


すぐそばで申し訳なさそうにあたしを覗き込む篤さん。

プライベートの篤さん。
いつもはきっちり帽子の中にしまってる前髪が、今日は無防備に風に揺れている。

意外と長めの前髪の向こう側で、篤さんとパチリと目が合った。
春の風のように、篤さんは目じりを下げる。

その笑顔に、あたしはいつも心があったかくなって。
どこか懐かしくて、そして優しい気持ちになれた。


篤さん……




「30にもなる男が、情けないよね。あはは……」



そう言って、クシャリとえりあしに入り込む。
細くて長い指が、真っ黒な髪を無造作にかき回した。

……さっきのジェットコースターのおかげで、髪なんてとっくにボサボサなんだけど……。



「情けなくなんかないです!」

「え?」



思わず身を乗り出してそう言うと、篤さんはキョトンと目を瞬かせた。

真っ直ぐに、ジッとあたしを見つめる篤さん。
その視線をヒシヒシと感じながら、キュッと手を握りしめた。


今なら……、



「あ……あの、篤さんらしいって言うか、その……そう言う所がすごく、あたしは……あの、すごく、」



好きです!

その一言を言おうと、息を吸い込んだまさにその時だった。





「しーほー!」



えっ!

いきなり大声で呼ばれて、ハッと顔を上げる。
見ると、すっかりアイスクリームを食べ終わった草介くんがあたしを睨んでいて。

目が合うと、ビシっと何かを指差した。



「次! あれ乗ろうぜ!しょうがないから、お前とふたりで乗ってやる!」



無駄に偉そうに言われて、意気込んでいた気持ちが一気にしぼんでいく。

あたしは思い切り深くため息をついて、その勢いのまま腰を上げた。