「あ、いらっしゃいませー!」
茜のその声に、ハッと我に返る。
自動ドアの方を見ると、若い女の人が小さな男の子を連れてのれんをくぐったところだった。
「いらっしゃいませ」
いつものように言うと、その女の人は真っ直ぐにこちらへやってきた。
買い物をしに来たんじゃないみたいだ。
少しキョロキョロと視線を巡らせてから、真っ赤な唇を開いた。
「あの、松山篤はいますでしょうか?」
「え?」
篤さん?
小柄で、まるで可憐な花のような雰囲気を持ったその人の手から男の子が駆け出すと、ショーケースにペタリと張り付いた。
「うまそー!これ全部篤が作ったの?」
「こら、草介!大人しくしてて」
「えええ」
そうすけくんと呼ばれた男の子がプーッと唇を尖らせたところで、倉庫へ行っていた篤さんが戻ってきた。
お店にいるふたりに気付いた途端、顔色が変わる。
「……椎香(しいか)」
「お兄ちゃんっ!」
へ?お、お兄ちゃ……?
一歩、また一歩と後退りする篤さん。
その顔は心なしか……うんん、見るからに青い。
あたしも茜もただ成り行きを見守るだけで……。
一定の距離を保つふたりを交互に見て、それから顔を見合わせた。
苦笑いの篤さんと、ワナワナと震えてる様子の椎香さん。
と、その時だった。
まるで一陣の風のように、足元をすり抜ける影。
あっという間にその風は、篤さんの元へと駆け寄った。



