溺愛プリンス



「ありがとうございました」



紙袋を差し出すと、二人組のお客さんは小さく笑ってそれを受け取った。
静かに自動ドアが空いて、その背中を見送ってから小さくため息を零すと、すぐ隣でクスッと笑う気配がして顔を上げた。



「茜、どうしたの?」

「気付いてないの?志穂」

「え?」



なにが?

不思議に思ってジッと見つめていると、茜はちょっとだけその綺麗な顔を寄せた。



「さっきから、ため息ばっかり」

「へ?」



ため息?



「そ、そんなについてた?」


キョトンとするあたしに茜は驚いたように目を見開くと、大げさに首を縦に振って見せた。


「それはもう、すっごいボーっとしてたけど。なんか悩み事? もしかして、また王子となんかあったの?」

「ハルと?まま、まさかっ!今いないから、せいせいしてるとこ」


茜の口から突然出てきた”王子”の単語に慌てて否定する。
それを見た茜は、一瞬間を開けて、「へえ」って頷いただけだった。


……そうだよ。

今は、ハルはいないし。
あたしは自由なんだ!



奥の厨房から篤さんが姿を現した。
トレーにたくさん並んだ色とりどりの和菓子を補充する篤さん。

あたしの視線に顔を上げた彼は、目尻を下げて優しい笑みを零した。


その笑顔を見ると、胸の中がほわっとあたたかくて懐かしい気持ちになる。
ハルといる時は、ざわざわして忙しくて……。
こんな穏やかな気持ちになんてならない。


全然、違うんだから。