溺愛プリンス



一気にガチガチに固まった身体。

見なくてもわかる。




……ハルだ。




薄暗い本棚の影。

完全にみんなから死角になったこの場所で、なぜかハルに抱きすくめられていた。




「……ハル、なにして」

「志穂」



あたしの言葉にかぶせるようにそう言ったハルは、わざと耳に唇がかすめるように囁いた。
瞬間、まるで全身に電流でも流されたみたいな衝撃が走る。



「会えてよかった」

「え?」



思わず振り仰ぐと、すぐにあたしを覗き込んだハルと目が合う。
伏し目がちな瞳が嬉しそうに緩む。


キョトンとして固まったままのあたしに、ハルはさらにこう続けた。



「これから日本を発つんだ。その前に志穂の顔が見たかった」

「……」


発つ?



「か、帰っちゃうんですか?」

「寂しいか?」

「えっ……そ、そんなわけ……」



かああっと頬が火照るのを感じて、パッとハルから視線を逸らす。
喉の奥で笑う気配がして、ハルはあたしに回していた腕を解いた。



「ま、そんなわけだから。しばらくは会えないぞ」

「……はい」



会えない……。

ポンと頭の上に乗った手が、無遠慮にワシャワシャと髪をすく。


されるがままのあたしに、ハルは口元を緩めると不意にその距離を詰めた。



ドキ!



え、な、なに?


いきなり近づいた距離に戸惑っていると、ハルはそのまま頬にチュッと口づけた。
そして、至近距離のままあたしを見つめ、息を呑むほどの甘い笑みを零すとそっと囁いた。




「”バイト”、頑張れよ」



うんと優しい声に、胸の奥がギュッと鷲掴みにされたみたいだ。
ハルが去った後も、あたしはしばらくその場から動き出せなかった。