「一般の学生と同じ体験をして、勉強したいなんて」



そう言って、ショーンさんに差し出されたお茶を手にしてるハルを見る茜。

あたしも同じようにそれを眺めながら、またため息をついた。




「……でも、だからってここでバイトされると、いろいろ困る」







大騒動だ。

一国の王子様が、こんな下町の和菓子屋で“バイト”してるんだから。



どんな気まぐれなのか知らないけど、ハルがバイトをし始めてから1週間たつ。



そのおかげで、彼がここにいる時間帯は物凄い長蛇の列が店の前に出現する。


それを地元のメディアはこぞって取り上げて。
さらに話題を呼んでいた。






そして、もっとあたしの頭を悩ませてる事があって。

それは……。




「志穂、客人がお待ちだ」

「あ、はい!」

「志穂、泡恋がなくなったぞ。持って来い」

「はい、只今!」


「志穂!」
「はい……!」



まるでメイドのような扱い。
何をするにも、名前を呼ばれ……。
呼ばれ続け……。





「志穂!」

「志穂…志穂…志穂!」




……イライラ

あたしのストレスも頂点に達し……。





もおおお!
なんなのよぉぉぉ!



「…っはぁぁ…」




人気のなくなったお店の外に出て、藤色ののれんを店の前から外す。

そっと空を見上げると、紺色の空の中におまんじゅうみたいな月がぽっかり浮かんでいた。