溺愛プリンス


むむむ……。

ジトーッと睨むあたしと、不敵に笑みを零す王子。





「し……志穂……」




気まずそうな茜の声。

茜はあたしが篤さんを好きなのをずっと前から知っている。
この場所に、王子が来てほしくなかったことも。




まさに一触即発。



「ふん」と鼻で笑った王子。
それにカチンと来て、一言言ってやろうと口を開きかけたその時。



「どうかしたの? お客さん?」



厨房から篤さんが顔を覗かせた。




「……あ、あの」


ひゃあぁあ!

篤さん、なんてタイミング!



勢いよく出かかってた言葉は、篤さん登場でどこかへ消えてしまって、ついでに『恐怖』いうものを連れてきた。

篤さんの事、王子にバレたら……。




「いらっしゃいませー」




愛想よく接客しようとレジに立つ篤さん。
なぜか王子は彼の顔をじーっと見つめたまま、微動だにしない。


ドクン


な、なに?



「観光ですか?……ん?あれ、前にお店に来て下さいました?どこかで見た……」

「いえ、初めてです」

「え、そうですか?うーん……」



首をひねった篤さん。


って、そりゃ見た事あるよ!

時々テレビ映ってる有名人だよ?
この辺りで、うちの大学に通う王子を知らないなんて、きっと篤さんくらいだよ!


絶望的な気持ちになる。



お店の外にはあの3人組が控えてる。



あたしは意を決して篤さんの腕を掴んだ。





「……あ、あの、篤さん! ここはあたしがっ。篤さんはあのお菓子を……ね?」


「え?」



食い気味にそう言って、篤さんを厨房へ引っ張る。




黙っていた王子は、腕を組むと、ギロっとあたしを睨んだ。






「志穂!」