最近、キャンパスライフが非日常化しつつある、あたし。
この月屋だけは、あたしのオアシスだった。
何者にも邪魔されない、たった一つ。
心が温かくなる、そんな場所。
この場所だけは、なんとか守らなくちゃ……。
そう思って、ショーケースの中の和菓子を整理しようとかがんだ時だった。
ウィーン……
お店のドアが開く音に、顔を上げた。
「いらっしゃいま……」
だけど。
そんなあたしの儚い願いは、もろくも崩れ去る。
「ふーん……ここが志穂の“バイト”先か」
音もなく……。
「……な……なん……」
言葉も発することもできずにいると、突然大きな音がして我に返る。
ガタガタ!
見ると床にいくつものおまんじゅうが散乱していた。
その向こうに、茜が目を見開いて口元を覆っている。
「……ハ、ハロルド王子!!!?」
彼は興味深そうに店内を見渡しながら、あたしの目の前までやってきた。
「マヌケな顔だな。 俺が来たのがそんなに嬉しいか?」
はああ!!?
眉間にグッとシワを寄せたあたしを見て、王子はなんともイジワルそうに微笑んだ。
……これが、あの……ハロルド王子?
すっごく悪そうな顔してるんだけど!
大学での、あの王子スマイルはどこ行ったのよ!



