「……これ、さくらんぼ?」
「さすが。よくわかったね。甘い、恋の味……なんつって」
そう言って、篤さんは照れくさそうに頭を掻いた。
……バカみたい。
恋の味、なんて。
でも……篤さんの顔見てたら、胸がギュってなって。
たしかに、この和菓子みたいに体がピンク色になっちゃいそうだった。
あたしが、ここでバイトを続けてる理由。
それは、彼がここにいるから……なんだ。
咳払いをして気を取り直した篤さんは、真剣な顔であたし達を交互に見た。
「それで、どうかな? お店に出せそう?」
「はいっ。絶対いけます」
大げさなくらいコクリと頷いた茜。
そして、篤さんはあたしを見て「志穂ちゃんは?」と首を傾げた。
あたしは、口元に手をやってさっきの甘い味を思い返していた。
「……なんて名前ですか?これ」
そうつぶやいたあたしに、篤さんはさらに照れくさそうににっこり笑うとこういった。
「泡恋」
アワコイ……
淡い、恋?
泡のような……恋?
すっごく篤さんっぽい。
そう思って、思わず笑ってしまった。
「あ、志穂ちゃん、笑ったな? 俺、これでも結構マジで考えたんだけど」
「あははっ、篤さんが真剣に? あははは、すごくイイネーミングです!ね、茜」
「うん、中の白餡も最高です」
小さな小さな和菓子屋は。
ほとんどが篤さんと、あたし茜だけで成り立ってて。
時々先代が、別棟から顔を出してくれたりするだけで、穏やかな時間が流れていた。
あたしは、ここが……。
篤さんが好きだった。



