だ、誰?
「……っと、もう俺をお忘れですか?壁の花」
「……」
そういって、ぐっと顔を寄せた男の人。
そうだ、この人……あたしを最初にエスコートしてくれた……。
どうしてこの人がここに……?
「ずっと見てましたけど、あなた誰を待ってるんですか?」
「え?」
薄暗い廊下。
人気の少ないこの場所で、名前も知らない彼はあたしの肩をつかんだまま、さらに距離を詰める。
だ、誰って……そんなの言えるわけない。
押し黙っていると、喉の奥でクッと笑う気配がした。
なに、この人……。
「…………そんな怯えた顔しないで下さいよ。貴族の方々の誘いを全部蹴っていたんだ。本命はすごいやつなんだろうな」
「……、ごめんなさい。あたし、急いでるんです」
掴まれた肩をよじり、彼との距離をとろうと後じさりした。
でも……。
―――トン。
背中に感じる冷たい感触に、ヒヤリとする。
気が付けばすぐそこは壁。
ハッとして顔を上げると、怪しい笑みを浮かべた顔がすぐそこに迫っていて。
逃げられないように、体を囲われてしまった。
ドクン
ど、どうしよう……。



