溺愛プリンス



佇む人影の足元に転がっていたスリッパ。
それをゆっくりと拾い上げる、その姿を目で追いかける。


それは、まるでおとぎ話そのもの。
ガラスの靴……じゃなくて、スリッパを手にした王子様は、呆れたように目を細めた。



「まったく。なにしてんだお前は」



「……ハ……ル……?」



呆然と見上げてると、ふと目を伏せたハルがあたしの元へ歩み寄りゆっくりとしゃがみ込んだ。
それから同じ目線になるように覗き込まれ、真っ黒な前髪の向こう側の瑠璃色の瞳と目が合った。



「大丈夫か。立てるか?」

「どうして……?帰ったんじゃ……」



ハルは転んではだけてしまったあたしの浴衣に手をかけて、そっと直した。



「帰って欲しかった?」

「え?」

「志穂が望むなら、そうしてやる」

「……」



なんで?
なんでそんなふうに言うの?


ハルはただ、あたしの言葉を待ってる。

いつも強引なのに、肝心なことは言ってくれなくて。




いつも、いつも……あたしのために……。