溺愛プリンス



部屋の襖の向こう側を気にしていると、ハルはあたしからふと視線を落とした。
そして、お猪口を手に取るとそれを口に運ぶ。



「……だったら何だ?」

「え?あ、大丈夫なんですか?ショーンさん心配して……」



思わずそう言うと、ハルは伏し目がちの瞳をグッと細めた。



「俺が黙って来るはずがないだろ。たまたま”休み”が出来たから、気まぐれでちょっと立ち寄ったんだ」

「え?」


た、たまたま?


「ずっと仕事が忙しかったからな。俺にもプライベートの時間が欲しかった。そう思ってたところで偶然お前がこの草津にいるのがわかった」


お仕事が……。
そっか、そう言えばニュースでも言ってたっけ。積極的に公務に参加してるって。



「何を勘違いしてるのか知らんが、ひとりで食事するよりも”誰か”と一緒の方がマシだと思っただけだ」



そう言ったハル。
その”誰か”って言う言葉が、ここにいるのは誰でもいいって言ってるみたいで……。

あたしは、ずっとハルに会いたかった。

でも、ハルはそうじゃなくて……。
今日だって、別にあたしに会いに来てくれたわけじゃなくて。

って、あはは。なに考えてんのあたし。
無性に切なくなってしまった。
悲しがっちゃダメだよね。笑わなくちゃ。



「そうですよね。余計なこと言って、すみません」


必死で口角をつりあげて、肩をすくめて見せた。
気を取り直して箸を手の取ると、お刺身に手を伸ばす。


その時だった。



――カチャン。



静かに、机に置かれたお猪口。
そのまま立ち上がったハルを、呆然と見上げる。



「ハル?」

「俺は失礼する」




え?