「…………」
「…………」
ジンジン痛む、右手。
一瞬ポカンとしたハルの、その左の頬がジリジリと赤くなる。
思いっきり距離をとったあたしを、ハルはジロリと睨んだ。
「……俺を二度も殴るとは……」
う!
「たいした女だな」
真っ黒なオーラが背後から……。
!!!
あたしは慌てて踵を返すと、玄関ドアを開け放った。
「か、帰って下さい!」
「なに?」
「帰って下さいってば……!」
あたしよりもずいぶん背の高いハル。
その彼の背中をグイグイ押して、なんとか外へ追い出した。
「お前な……」
「さよなら!」
高級そうな靴も、ポイッと放り投げて、そのまま思いっきりドアを閉める。
バタン!
「ハ、ハロルド様!」
駆けつけてきたショーンさんの声。
「ーーー行くぞ」
それから、ものずごーく怒ってるハルの声……。
………あたし、やりすぎたかな。
アパートの階段から降りる無数の靴音。
そして、遠ざかる声が聞こえた。
「だから色気がないと言ったんだ!」
や、やっぱり……。
……最っっっ低!!!
一瞬にして静まり返ったワンルームの部屋。
換気扇の回る音だけが、虚しく響く。
そしてあたしは、お鍋いっぱいに作った肉じゃがを、3日もかけて食べるはめになってしまった……。