ヒロ兄ってば、なんで校門で待ち合わせたの?
最初からここって指定してくれればよかったのに。
まったくあの人が理解できないな……
「すううう……はあああ」
大きく深呼吸すると、あたしは周りを見渡した。
ゆっくりと本棚の合間を歩いて、奥へと進む。
もう、ほとんどの学生はいなくて。
……というより、誰もいないみたいだ。
館内はシンと静まり返っていて。
耳鳴りがしそうだった。
天井に届きそうな本棚を見上げながらさらに奥に進む。
「……いないじゃん……」
ヒロ兄にからかわれたかな。
そう思いながら、あたしは窓から降り注ぐ太陽の光に目を細めた。
この本棚の奥は行き止まり。
あたしのいつもの席しかないもの。
やっぱりいない。
そう思ってふうっと大きく息を吐きだした。
肩の力が一気に抜けた気がして、持っていた鞄をかけ直した。
窓から空を見上げる。
刻一刻と姿を変える春の空。
オレンジが、赤く染まっていた。
何かが、あたしのすぐ後ろに迫ってきてる気がして。
思わず言葉が零れた。
「……空が……泣いてる」
窓に手をついて、そうつぶやいた瞬間。
人の気配がして、すぐに後悔した。



