溺愛プリンス


あの日聴こえていた洋楽が、今日は聴こえてこなかった。
代りに、雨音と、それをよけるワイパーの音がやたら響く。



「……」

「……」



無言が……つらい。
なにか話さなくちゃって思うのに、想いは言葉になって出てきてはくれない。


窓の外に視線を向ければ、流れる景色はなにもかもぼやけていて。
車の中だけ、別世界になってしまったみたい。

苦しくて、息も上手く吸えない。



「この交差点を、左でいいかな?」

「……は、はい」




遊園地に行った時、あんなに座りたかった助手席なのに。
今は、辛い……。

ツラいだけの、ふたりきりの帰り道。
ようやく、見覚えのあるアパートが見えてきて、あたしはほっと小さく息をついた。

篤さんは、アパートの前に車をつけるとサイドブレーキをかけた。



「……ありがとうございました。家まで送っていただいて……」



鞄を握りしめて、意を決して顔を上げた。
ずっとこのままなんてダメだし、あたしも、普通に話せる努力しなくちゃ。



でも。
見上げた先の篤さんは、ハンドルに手を置いたまま、少しだけ俯いていた。


「あの、篤さん?」

「……」


具合でも悪くなったのかと思って、身を乗り出した時。
篤さんが顔を上げた。