翼に甘くキスをして

肩幅に足を開き、両手を腰に当てる姿は--‥うん。先生って感じだ。

するとその先生に向かって、明らかに嫌そうな顔を向けるその男の子。



「めんどくせっ」



そう言ってまた顔を伏せた男の子に、先生はツカツカと近寄り、耳元で何かを囁く。

すると、男の子はガタンッと派手な音をさせて立ち上がった。


そのやり取りを見ていて首を捻ったのは、決して私だけではない。



「水月ーおいでぇ」



手招きした先生に向かって歩く。教室中の視線が刺さってるような気がした。



「あんたの席はココっ」



それはその男の子の隣。軽くお辞儀をして、先生が引いてくれた椅子にちょこんと座る。

すると先生は、ニンッと綺麗な顔いっぱいに笑顔を描いて教卓に戻り、ホームルームの終わりを告げた。

そしてたちまち辺りはヒトだらけ。


同年代のヒトがこんなにいっぱい居るのを見たことがなかった私は、わたわたすると同時に、すごく嬉しかった。

だから、分かる質問にはひとつずつ答えていく。


それは呼び方だったりとか、髪の毛のことだったりとか。

でも--‥



「なんでこの時期に転校?」

「あ、転校じゃなくて、ちょっと遅い入学なの」

「なんで?」

「えっと‥その、」



“病院に入ってました”なんて言ったら、気を使わせてしまうかもしれないと思った私は、答えることが出来なかった。


言葉が止まってしまった私を、みんなが見てる。


私はどうすれば良いのか分からず、スカートに視線を落とした。

その時、



「わっ!!」



右の二の腕が引っ張り上げられ、足が伸びた。



「えっと、あの‥っ」



そのまま廊下に向かって引っ張って行く彼に、私はただよたよたと着いて行くことしか出来なくて。

振り返った時に見たクラスメートたちは、揃ってキョトンとした顔で私たちを見ていた。


引っ張っていたその手は、廊下の突き当たりを曲がったところで離される。



「あの‥」



なんだか目に見えるくらいの不機嫌オーラが漂うその背中に、私は恐る恐る声をかけてみた。



「あ"ーったく‥」



壁にゴンッとおでこを打ち付けた彼に、



「ご、ごめんなさい」



なんとなく謝ってみる。そしたら‥



「あ"?」



……このヒト、恐いヒトだ。