翼に甘くキスをして

「呼んだら入ってきてね?」



1年C組と書いてあるプレートの前に立たされ、ニッと笑った顔が私に近づいた。



「はーい、おっはよー」



背を向け、元気良く教室に入っていったのは、さっき華さんに紹介されたばかりの担任の先生。



「つーことで、今日のメインイベントだよん」

「接続詞まちがってるよー美紅(ミアカ)っちぃ」

「あはは、まだ何も喋ってねーしっ」



クラス中が笑ってて、楽しそうだ。



「連絡事項とくになしっ。だからメインイベントなのっ」



スラリと高い身長。綺麗な人。なのにジャージ。



「入っておいでー」



そのハスキーな声は、私の心臓をドキリと鳴らした。

ドキドキ、ドキドキ‥

震える心臓をキュッと押さえながら、その明るい空間に足を踏み入れる。



「じゃーんニュークラスメートぉー、いえぃ」



ハイテンションで紹介された私は、どうして良いのか分からなくて。

あんなに笑い声が聞こえてた教室が、シ‥ンと静かになったことに不安を隠せなかった。



「はい、自己紹介」



ポンと背中に触れた手は、身体と一緒に心も前へと押し出す。息を吸って‥



「水月 翼です! よろしくお願いしますっ」



やっぱりすごく大きくなってしまったご挨拶。



「あっはっはっは。元気いーねぇ。みんな、よろしく頼むよっ」



その声をキッカケに、だんだんと騒ぎ出した教室。

叫ぶヒト
質問するヒト
じっと見てるヒト
笑ってるヒト

外の世界ってなんだか、楽しいヒトばっかりだな。



「ほい、黙れっ」



先生が手を叩くと、たちまち静かになった。

この先生ってきっと、なんか凄いんじゃないかな?

私はほけーっとなりながら先生を見上げてみる。

すると、額に手を当てながら、大きなため息を吐き出した。



「おい誰か。そいつを起こしてくれ」



みんなが後ろを向いていく。その視線の先には、机に突っ伏して寝てる男の子。



「んあ‥? なんすか、美紅っち」



揺り起こされて、目をこすったそのヒトは、不機嫌そうな低い声を響かせた。



「小金井(コガネイ)、お前が案内担当だ」

「……はぁ?」



ジロリと私を一瞥した彼は、更に不機嫌なオーラを纏う。



「なんで俺が」

「お前の愛しい愛しい火野先輩からの頼みだよん」