「いってらっしゃいませ」



ドアを開けてくれたお姉さんにお礼を言って、見上げた目の前の光景に唖然とする。



「どした、翼」



腰を折って私の顔を覗き込んだヒロくんは、何でそんなに普通でいられるの?



「ここ‥学校?」

「当たり前だろ」



私がいた病院よりは小さいけど。

テレビとか見て想像してたイメージと、だいぶ違う。


綺麗に補整されてる灰色のレンガ道。

左右を囲む落葉樹からは、微かに桜の匂いがする。


それをずっと先まで見れば--‥



「綺麗‥」



シンメトリーで、まるでお城みたいな校舎が建っていた。

象牙色の壁に、たくさんある窓。

窓から見える人も、このレンガ道を歩いてる人も。みんな、みんな、



「同じ服‥」

「ははっ。当たり前だろ? 制服なんだから」



「ほら行くぞ」って差し出された手をとって、私は恐る恐る灰色のレンガに足を乗せた。



「つーばーさー、そんなノロくちゃ遅刻しちまうよ」

「だって、だって」



校舎が段々と近づいてくるんだもん。

心臓がバクバクと窮屈で。足が、うまく前に進まなくって。



「不安?」

「ん‥」



私は、綺麗なレンガ道に向かって頷いた。



「大丈夫だよ」



ヒロくんの大きな手が、私の頭を撫でる。



「すぐに友達もできるって」



友達‥。その言葉で、今までの不安が嘘みたいに晴れる。



「うんっ」

「ん~♪ かぁいーなー、お前はー」



私を撫でくり回すヒロくんの所為で、また髪の毛がわっさわさだ。



「火野(ヒノ)先輩おはようございます」

「おぅ、おはよー」

「おっす大空」

「おーっす」



ヒロくんには、色んな人が声をかけて通り過ぎる。

わ‥私も挨拶したほうが良いのかな?



「火野ーおっはよー」

「おーう。はよー」



ココだっ!!



「お、おはようゴザイマスっ!!」

「「え゛」」



意外と大きくなってしまった渾身の挨拶は、辺り一帯に響いた。

みんながこっちを見ているような気がして、深く下げた頭を戻せない。



「…………」

「…………」

「…………」

「ぷっ、はっはははははははははははは」



びくっ

恐々と顔を上げれば、お腹を抱えて爆笑してる綺麗なお姉さんと、優しく笑ってるヒロくんが居たんだ。