「華さん‥」

「ん?」



乗ったことのない黒い車の中。運転席には、朝お礼を言ったお兄さんがハンドルを握っていた。

華さんは優しい顔をしていたけど、なんでかな。なんでこんなに……悲しいって気持ちが伝わってくるのかな。


聞きたいことはいっぱいあるの。

ヒロくんのこと、小金井くんのこと、華さんのことも、あのヒトのことだって。

もう、何がなんだか解らないの。


みーんなが繋がってるのに、私だけが弾かれているようで。

私だけが何も知らない。


ううん。何を知らないのかすら、ワカラナイ‥。



「ね、翼ちゃん」



太陽が、暖かな光を車内に運んでるの。



「明日からの週末の2連休、外には出ないでね」



そして私はまた、太陽から離される。

焦がれて、焦がれて、近付きたくて。



「やだ」



ずっと銀色の枠から眺めてた。



「お願い、翼ちゃん」

「嫌ですっ」



やっと、やっと直に浴びることが出来るようになったのに。自由になれたのに。

羽ばたこうとすれば、すぐに籠に入れられる。



「嫌‥」

「翼ちゃん」

「何でっ」



華さんの声が、低く掠れて。



「……翼ちゃん」



さっきと同じ。怒ったような、諭すような、強い声。



「何で‥っ、ヒロくん。ヒロくん。助けて、ヒロくん」



いつだって真っ先に飛んできてくれた。

私をあの白い箱から出してくれた。


ヒロくんに会いたい。
ヒロくんと話したい。


だってヒロくん、私をあんなに呼んでたもん。



「良い? 翼ちゃん。こんな風になるなんて、誰も予想してなかったの」



華さんの、低く掠れる強い声。

でもね、少し揺れていた気がしたから。

だから、顔を上げて、瞳を見てしまった。



「今の火野には会わないで。それに風也にも。お願い」



逆光で影になったアーモンド型の大きな目。悲しそうに目尻を下げて、キラキラしていて。



「お願い」



私はそれを了承するしかなかった。





--------‥





抗ったって、事実は無情に流れていくわ。


だって私は、紫陽花から産まれた子だもの。