駆け込んで来た2人が、ちょうどヒロくんの立っている辺りで足を止めた。

そして2人とも、少しの沈黙を置いた後、大きく息を吐き出したんだ。



「ため息なんかついたら、幸せ逃げちゃうよ? 華、小金井」



このピリピリした空気の中、ユルい声が緩い台詞を呟きながら笑う。



「うぅ‥」

「んー? どした?」



私の頭はいまだ顎に固定されたまま。だからちょっと、痛かったの。



「顎が‥刺さります」



それを正直に言うと、乗っていた重さがなくなって頭が自由になった。


と同時に手の握り方が変わり、頭が引き寄せられるようにして押し付けられたんだ。

眺めるのは、変わらず白と黒。

聞こえるのは、トクン、トクンとゆっくり流れる落ち着く音。



「風也‥てめぇ‥」



ヒロくんが、そんな言葉を使うだなんて知らなかった。

ヒロくんが、そんな風に怒るだなんて知らなかった。


……怖かった。



「風也、翼ちゃんを私に預けて」

「華っ」

「火野は黙ってて」



いつも高い声が底辺を掠り、それはとても強い意思を持っていると思った。



「んー‥」



緑色の瞳が私を覗き込む。鼻が触れてしまいそうで、なんだか顔が熱くなっていく。



「華なら大丈夫かな?」



ユルい声は、私に同意を求めていると思った。だから私は、静かに首を落とした。

離された手。
離された身体。

すかすかして、寂しい。



「翼っ」

「大地っ!!」

「お、おぅ」



その時のヒロくんの顔は、やっぱり私が今まで見たことのあるヒロくんの、どの表情にも当てはまらない。

小金井くんがヒロくんを押さえつけるようにしていた。

ヒロくんならきっと、そんな拘束なんてスルリと抜けてしまうだろう。


でも、そうならないのは……


ヒロくんが、今にも泣いてしまいそうな瞳をしていたから。