翼に甘くキスをして

昨日みたい。昨日も、先生に紹介されて教室に入った瞬間、静まり返った。

でも--‥でも、今日は昨日とは違う。

なんていうか‥ピリッとした空気が張り詰めているみたいだった。



「おはよう」



私は昨日少し仲良くなれたヒトに挨拶をしたけど。



「あ‥おはよ」



そう短く返されて、背を向けられてしまった。

次のヒトも、その次のヒトも。


昨日の帰り際、また話そうねって言ってくれたヒトまで、まるで私から距離を取るように背中を見せた。


胸の中に寂しさと悲しさが押し寄せて、潰されて‥苦しい。



「水月っ」



この教室だけがマイクを置き忘れたかのような静寂の中で、その怒ったような声がよく響いた。



「早く座れよ。今日の教科書は持ってんのか?」



それは、私の足を動かすには充分過ぎる程の優しさ。



「あ‥うん。持ってる」



そう言って、小金井くんの隣に座る。

クラス中のヒトたちが、私たちを見ているような気がした。

それは好奇の目なんかではなく、どこか冷たい‥そう。何かに怯えるような、遠くからの視線。



「あの‥小金井、くん」

「今はダメだ」

「え‥」

「今は耐えろ」



何がダメで、何を耐えるのか。

私には解らない。


外の世界は温かいと思った。あんなにも楽しいと思っていた。


けれど。

あの時から。

あの放課後から、何かが変わってしまった。


それがとても、悲しかった。



「では次の問題を‥さっき眞中だったから--‥水月っ!」

「あ、はいっ」



授業で当てられるのは初めてだった。でも先生は、私の顔を見るなり眉根を寄せて困ったような表情になったんだ。



「水月‥翼、か。君はイイや。この問題は矢中が答えろ」



--‥なんでだろう。

先生すら、私から離れようとしているみたいに見えてしまった。


苦しくて、視界が少しだけ滲んでしまって。

どうして良いのか解らなくて。


私は助けを求めるように隣を見たけれど、隣のヒトはぐっすりで。


チャイムが鳴って、みんなが動き出す。

まただ。

また、クラスのヒトたちは私を避けるように流れてく。


私はこの空間に居ることが苦しくて。



「‥っ、」



飛び出して、走った。