今日の最後のチャイムが鳴り終わると、クラスメートが一気に立ち上がる。

ガヤガヤと楽しそうなその声たちは、これからの時間の使い方について話していた。



「じゃあね、水月さん」

「また明日もお話しようねっ」



自習時間でだいぶ打ち解けることが出来た私は、次々にかけられる声に、ひとつずつ返事をしていった。



「また明日」



そう言えることが嬉しくて。手を振ってもまたすぐ会えることが嬉しくて。

私の心はずっと踊りっぱなしだった。


初めての学校。
初めての放課後。

放課後の教室って、オレンジ色の夕焼けで染まってるイメージだったけど。見上げた空はまだ青く、太陽も元気だ。


私はふと、隣で突っ伏して寝ている小金井くんを見た。

だってね?



「‥ーぁにゃ」



時々なにか言うんだよ?



「何を言ってるんだろう」



気になった私は、小金井くんに近づいて耳を立てる。

すーすーと規則正しい呼吸に乗って微かに聞こえるそれを、聞き逃さないようにだ。



「は‥な」

「はな?」



なんだろう、はなって。

私はもっと聞き取ろうと、覆い被さるように音を集めた。

その時--‥



「翼っ」



それは、空気に低く響いて、背筋が凍ってしまいそうなくらいの鋭い声。

ほら。

教室に残っていたクラスメートのお喋りが、一瞬にして静まり、視線が集中する。



「何してんの」



藍色の髪に少しだけ隠れた、それと同じ色の瞳が、今までに見たことのない程‥怒っている。



「ヒロ、くん‥」

「何してんのかって聞いてんだけど」

「あ‥えと」



ヒロくんのこんな表情を見るのは初めてで。怒られることなんてしてないのに。

私は、言葉が声になって出てこなかった。

胸の奥がギュッと掴まれたような、この苦しい感覚に、どう対応して良いのか解らなかった。


ガンッ!!


壁が、ヒロくんの拳で震える。

同じように、私も、クラスのみんなも、肩をビクッと震わせた。

すると、



「なにっ!!」



私とヒロくんの間で寝ていた彼が、勢い良く頭を上げる。